クラシックカーに
魅せられた2人が語る、
その普遍的魅力

車という共通の興味を持ちながら、まったく別の
分野で活躍する2人が“車愛”を語り合う特別対談。
半導体製造装置などの開発を手掛ける諸井さんの、
日本有数のクラシックカーのレストア車コレクションに
触れるため、松田選手が群馬県館林を訪れた。

車を作る楽しさに夢中に

松田:共通の知人を介して諸井さんと知り合ってからもうだいぶ経ちますが、その間色々な方からお噂を聞いていて。ずっとコレクションを拝見したいと思っていたので、今日はとても楽しみにしてきました。
諸井:ありがとうございます。といっても、全部自分が所有しているというわけではないんです。人から預かっているものも含め、現在倉庫にあるクラシックカーは100台ほどです。
松田:いや、100台というだけで、十分すごいですよ!

諸井:ここまで集めることになったきっかけは、20年ほど前に入手したトヨタ「2000GT」なんです。私は元々車好きで。余談ですが、一番最初に買ったのは「ポルシェ964」でした。まだ若くてお金がないながら頑張って買ったのですが、外野に色々言われましてね。でも、次に買った「2000GT」のときは、誰にも何もいわれなかった。無理かなと思って銀行に借金のお願いをしに行ったら、「2000GT」はいい担保になるからとすんなりお金を貸してくれて、それで手に入れることができたんですよ。このとき、「ああ、人にとやかくいわれないようにやればいいんだ」と気付いて、そこから古い車を集め出しました(笑)。そうして買った「2000GT」ですが、直したい部分があっても当時はとにかく部品がなくて、じゃあ自分で作ろうと。本業の半導体製造装置の仕事でレベルの高いものを要求されるにつれ、高度な車の部品も作れるようになっていったという感じですね。20年もやっているので、今ではどんな部品でもほぼ困りません。よそで直せない「2000GT」でもうちでは直せるので、いつもだいたい10台ほどは倉庫にありますね。うちで作った部品をトヨタさんにも提供することもあるんです。

松田:それはすごい。以前所属していたチームオーナーが古いレーシングカーを持っていたので乗らせてもらったら、ものすごくよく走るし、よく曲がるのでびっくりしたことがあります。アルミを曲げただけみたいなフレームだし、正直、大したことないと思っていたんですが。古い車でも、こんなに動くのかと。
諸井:部品さえ変えれば、車は何度でも生まれ変わることができますから。買ったときの満足は瞬間的ですけれど、こうやって作っていると、もっとどきどきできる。それが醍醐味のようなものですね。しかも、今は昔に比べて路面の状態もよくなっています。そこを50年前のタイヤで走るのはどうかと思うんですよ。適材適所といいますか、状態に合わせて車の部品も変えるべき。ですから結果的に見ると、レストアすることで当時よりも逆にいい車になっているんです(笑)。
松田:いいものを作ろう、残そうという活動を、ご自分で、しかもすごい規模でやってらっしゃる。素晴らしいと思います。
諸井:いや、でも、昔はクラシックカーなんて一生買えないと思っていた時期もありましたから。不思議なものですね。
 

好きな車だからこそ、
直しつつ長く付き合いたい

諸井:ここにある「288GTO」は、歴代フェラーリの中でも最高といわれる車ですよね。本物が高くて買えなかったので中身をいちから作ったんですが、値上がりする前の本物と同じくらいの費用がかかってしまって。今となっては本物を買えばよかったと(笑)。でも本物と並べて写真を撮っても、まったく違いが分からないくらいの仕上がりです。こちらは「フォードGT」の当時物。近年市場価格が高騰していて、優れたヒストリー付きの本物は10億円くらいすると思います。ランボルギーニ・ミウラのデザイン原型になったともいわれるデザインが好きなのですが、すごくポジションがよくて乗りやすい。よくこんな車で24時間レースをしたもんだなんて思っていましたが、やっぱり実際乗ってみないとよさはわからないし、いいものは理由があるんです。そういうところが、素敵だなと。
松田:今古い車を見ると「こんなに小さかったんだ」と思うことが多いですが、これはしっかりと大きさがありますね。やっぱり実際に見て分かることもあって、面白いです。
諸井:この「2000GT」は元々トヨタの広報車両で、加山雄三さんが映画で乗ったり、ドラマの「コメットさん」で使われていたものです。これを作ったのは20年ほど前ですが、当時は「2000GT」をチューニングしようという人が少なくて。クラシックカーレースに出ようと思い「レース用の部品を作りたい」と成った際、色々な企業さんが協力したいとおっしゃってくれて、ようやく完成させたんですが、いざサーキットを走ってみたら、まっすぐ進まなかったんです(笑)。フレームが柔いのに足元を固めすぎたんですね。それで、もう本格的にレースを走らせることはあきらめたんですが。
松田:色々な方から諸井さんのコレクションはすごいと聞いてはいましたが、実際に見るとやっぱり驚きます。僕も試乗会などで色んな車を見る機会がありますけど、こんなに貴重な車が一堂に介していることはないですし、1日あっても時間が足りません。

諸井:自分としては、作ってどうこうというより、必要にかられてやっているようなものなんです。車って動かすためのものですから。あとは、車を直すために何億円もする機械を買うことはできないですが、仕事のために買って、さらに車の部品も作れたらいいかなという。結構動機が不純なんですが(笑)。でも、自分がこうやって作り続けることで、みなさんの役に立てるかなとか、どこか社会貢献のような気持ちもあるかもしれません。あくまで本業もありますので、車に関しては、たとえば数日後に富士スピードウェイのサーキットを走るものを今作っているという、結構ピンチな感じでいつもやっています(笑)。ただ、せっかく縁があって出会った車なら、乗り換えるのではなく、直しながら付き合っていけばいいと思うんですよ。
松田:僕なんかは、子どもの頃本で読んでいたような車があるだけで、単純に感動しました(笑)。実際は見たことのなかった車ばかりでしたから。今日は本当に来てよかったです!ありがとうございました。
諸井:こちらこそ、ありがとうございました。